京都を代表する料亭のひとつ、菊乃井本店。
「たまには、こういうところで食事をするのもいいよね」
……と言いたいところですが、嘘です。
たまにどころか、菊乃井本店は今回が初めて。
そんな私が今回、ある会員向けの特別な食事会に参加する機会があり、菊乃井本店で食事をいただいてきました。
お値段は1人3万円ほど。
それでも本来ならもう少し高い価格帯になる内容らしいのですが、
今回は特別企画ということで、かなりお得な設定でした。
決して普段使いするような金額ではありません。
ただ、実際に行ってみると、
「高級料亭でご飯を食べた」
というだけでは終わらない時間でした。
料理。
器。
庭。
建物。
そして伊藤若冲の掛け軸や、見事な蒔絵の調度品。
料理を食べに行ったはずなのに、気付けば美術品にまで見入っていました。
初めての菊乃井本店へ
今回訪れたのは、京都・東山にある菊乃井本店。
京都にはこれまで何度も来ていますが、さすがに菊乃井となると、
「ちょっと昼ご飯でも」
というわけにはいきません。
いつか一度は行ってみたい。
そう思っていたところ、ちょうどいい機会があり、今回初めて訪れることになりました。
さすが京都を代表する料亭。
門をくぐったところから、もう普段の飲食店とは空気が違います。
静か。
落ち着いている。
そして、いい意味で緊張感があります。
料理の前に驚いたのが、部屋の「設え」
部屋に通されて最初に目に入ったのが、床の間。
そこに掛かっていたのが、伊藤若冲の掛け軸でした。

最初は、
「立派な掛け軸だな」
くらいに見ていたのですが、説明を聞いてびっくり。
伊藤若冲。
美術館で見る名前です。
それが普通に食事をする部屋の床の間に掛かっている。
しかもガラスケース越しではありません。
料理が始まる前から、
「ここ、やっぱり普通じゃないな」
となります。
下世話な話ですが、やっぱり値段が気になる
素晴らしい美術品を見た時は、
「素晴らしいですね」
とだけ言っておけば上品です。
ただ、どうしても気になります。
これ、いくらするんだろう?
当日伺った話では、若冲の作品ともなると、ものによっては億単位の価値になる世界とのこと。
もちろん美術品なので、作者だけで単純に値段が決まるわけではありません。
来歴や状態などでも大きく変わります。
とはいえ、
「億?」
と思ってしまいます。
その掛け軸の数メートル前で、普通にご飯を食べているわけです。
なんだか落ち着きません。
蒔絵の箱は、さらに値段が分からない
そしてもう一つ印象に残ったのが、蒔絵の調度品。

金の蒔絵に螺鈿。
近くで見るほど、とんでもなく細かい仕事です。
こちらも当日、
「単純にいくらと値段をつけるようなものではない」
という国宝級だと趣旨の話を聞きました。
こういうものを見ていると、
高級料亭というのは単純に
「高い食材を使っているから高い」
という世界ではないことが分かります。
建物。
庭。
掛け軸。
器。
調度品。
花。
そして接客。
全部含めて、この空間なんだと思います。
そして、いよいよ料理
美術鑑賞に来たわけではありません。
本題は料理です。
今回いただいたのは、季節を感じる懐石料理。
料理が運ばれてきて、まず思ったのが、
とにかく見た目がきれい。

普段なら、
「冷める前に食べよう」
となるところですが、
一皿出てくるたびに写真を撮りたくなります。
そして当然ですが、味もおいしい。
刺身。
椀物。
焼物。
炊き合わせ。
どれも、
「まあ、これはうまいわ」
となります。
料理について専門的なことを語れる舌を持っているわけではありません。
なので、下手に評論家のようなことは書きません。
でも、おいしいものはおいしい。
これは分かります。
八寸は、料理というより作品
特に印象に残ったのが八寸。
一品一品は小さな料理ですが、全体で見ると一つの景色になっています。
季節の食材。
器。
葉や花。
それらが全部まとめて一つの料理。
普段の食事なら、
「一番うまかったのはこれ」
と考えるのですが、
この日は少し違いました。
料理そのものを見る時間も含めて食事。
これが懐石料理なのだなと、素人ながら感じます。
器を見るのも面白い
菊乃井で食事をしていて面白かったのが、器。
料理が変わるたびに、当然のように器も変わります。
普段なら器なんて、
「料理が乗っているもの」
くらいの感覚です。
ところが、ここでは器も完全に料理の一部。
同じ料理でも、この器だから成立するんだろうなと思わせます。
料理。
盛り付け。
器。
季節。
全部セット。
日本料理は味覚だけで食べるものではないんだな
ということが、少し分かった気がしました。
食材の背景について聞く時間もあった
今回は料理をいただくだけではなく、食材や海、日本料理のこれからについて話を聞く時間もありました。
普段なら、
「おいしかった」
で終わるところですが、
その魚がどこから来ているのか。
海の環境がどう変わっているのか。
今後も同じ食材を食べ続けられるのか。
そんな話を聞いたあとで料理を見ると、少し印象が変わります。
最初は完全に、
「今日はおいしいものを食べに来た」
くらいの気持ちだったのですが、
最後には少し真面目なことも考える時間になりました。
1人3万円ほど。高かったのか?
今回の食事は、1人3万円ほど。
2人で行けば、それなりの金額になります。
当然、安いとは言いません。
3万円あれば、
普通のランチなら何回食べられるんだ、
という話です。
ただ、実際に終わってみると、
「料理に3万円払った」
という感覚ではありませんでした。
料理。
美術品。
庭。
建物。
器。
話。
サービス。
それら全部込みの体験です。
美術館に行って、
京都文化に触れて、
最後に一流の懐石料理を食べた。
そんな感覚に近い。
そう考えると、私としては十分満足でした。
50代になると、物より体験が面白くなってきた
最近よく思うのですが、
若い頃と比べると、お金の使い方が少し変わってきました。
もちろん、欲しい物がなくなったわけではありません。
いい車も欲しいし、
便利な物も欲しい。
ただ最近は、
行ったことがないところへ行く。
食べたことがないものを食べる。
見たことがないものを見る。
そういうものに使うお金の方が、あとでよく覚えています。
今回もそうでした。
伊藤若冲の掛け軸を目の前にして、京懐石をいただく。
たぶん何年か経っても、
「あの時の菊乃井」
という記憶は残ると思います。
菊乃井は「一度行ってみたい店」から「また行きたい店」へ
今回が初めての菊乃井本店。
訪れる前は、
「有名な京都の高級料亭」
くらいのイメージでした。
実際に行くと、料理だけでは説明できません。
建物。
庭。
器。
掛け軸。
調度品。
料理。
そして、おもてなし。
全部が一つになっています。
なるほど。
こういうものを含めて、
「京都の料亭」
なんだろうなと思いました。
まとめ|「たまには菊乃井」ではなく、人生初の菊乃井でした
「たまには菊乃井で食事でも」
と書けば格好いい。
しかし、
今回は人生初です。
それでも一度行ってみると、有名な理由はよく分かりました。
料理がおいしい。
それはもちろん。
でも、それだけではありません。
日本料理。
京都。
季節。
美術。
器。
そうしたものを全部まとめて楽しむ場所でした。
決して日常の食事ではありません。
だからこそ、
物ではなく、記憶に残る体験にお金を使う。
こういうお金の使い方も悪くない。
50代になった今、こういう時間を少しずつ増やしていきたいと思っています。
そして次に行く機会があれば、その時こそ堂々と、
「たまには菊乃井へ」
と言ってみたいと思います。